1990年代 渋谷系

1990年代、「渋谷系」と呼ばれる音楽が流行った。フリッパーズ・ギターピチカート・ファイブなどの洗練されたポップス。それまでの音楽通は、「俺、洋楽しか聴かないから……」という決まり文句を吐いていた。

ところが、「ダサい」はずの和製ポップスが「おしゃれ」になった。信藤三雄(C.T.P.P.)の手がけるジャケットは、60年代のフランス映画を彷彿させるデザイン。まるでゴダールトリュフォーのポスターだ。もちろん、音楽も都会的で爽やか。日本語の歌詞も不思議と軽やかに聴こえた。

渋谷のタワーレコードやHMV(センター街にあった)といった外資系CDショップが、この「渋谷系」の求心力だった。

さて、ひとつ疑問がある。「オザケンやカヒミ・カリイに、渋谷は似合うのか?」といった疑問である。隣の青山、原宿ならわかる。でも、渋谷って感じではない。それは、90年代でも同じではなかったろうか。

渋谷には “匂い” がある。音楽でいえば、FUNK(ファンク)こそ渋谷らしい。

ファンクとは

ファンクとは

ファンクとは、ブラックミュージックのひとつである。60年代のジェームス・ブラウンや70年代のスライ&ザ・ファミリー・ストーンが有名だろう。50年代末〜60年代のファンキー・ジャズ(ここではハード・バップとほとんど同義で使っている)にも「ファンキー」という概念がある。60年頃には来日に合わせて、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズが大ブームになった。

Wikipediaによれば、ファンクは「土俗的」を意味するスラング。いい意味であれば、「素晴らしい」「(音楽的な意味では)ノリがよい」。よくない意味では、「悪臭がする」など。ファンクには匂いのニュアンスがあるという。

現代の日本語の感覚からすると「濃い」みたいな感じだろうか。渋谷には、何か濃厚な “匂い” がある。もちろん比喩だ。つねにエネルギーを発散させているような、そんな街である。

若い世代には、ファンクといってもピンと来ないかもしれないが、ヒップ・ホップもブラックミュージックである。渋谷の街の至ることころで目にする、貼られたフライヤーや落書きも、そういったストリートカルチャーの表れだろう。

そう言えば、かつて流行った「ガングロ」や「コギャル」は、土俗的(ファンク)だ。

注)なんとなく、ファンクは大阪の繁華街が似合うような感じがする。あの「濃い」感じが、渋谷にもある。東京では、JR新橋の駅前あたり(汐留は洗練された都会のイメージだ)や上野、池袋にも同様の濃さがあろうか。東京の街は、最近ではほとんど綺麗になっているように感じる。

すり鉢状の街 渋谷

すり鉢状の街 渋谷

山手線の高架下に、車が走っている。地下鉄銀座線は渋谷駅で、突然地上に出る。渋谷には坂が多い。

渋谷は、駅に向かってすり鉢状になっている。JR渋谷駅前のスクランブル交差点が、すり鉢の底なのだ。

動画では、渋谷駅へ歩いていくように撮影した。(宮益坂、道玄坂、文化村通り、センター街)実際に歩いてみても、やはり人が多い。なんでも、渋谷のスクランブル交差点を、1日50万人が歩くという。

動画に登場する主な場所

宮益坂

宮益坂

道玄坂

道玄坂

渋谷百軒店

渋谷百軒店

スペイン坂

スペイン坂

のんべい横丁

のんべい横丁

文化村通り

文化村通り

センター街

センター街

スクランブル交差点

スクランブル交差点

ハチ公像

ハチ公像

帰らぬ主人を、10年間、渋谷駅で待ち続けた忠犬ハチ公。主人と一緒だった期間は、1年あまりだという。

モヤイ像

モヤイ像

イースター島のモアイ像をもとに、新島(東京都に属する島)の作家が考案したモヤイ像。モヤイには「もあう」(助け合う)という古語をかけてあるらしい。新島は日本各地にモヤイ像を贈っている。

岡本太郎『明日の神話』

岡本太郎『明日の神話』

1960年代末(大阪万博『太陽の塔』制作と同時期)、メキシコの建設中のホテルの依頼で制作。ホテルの経営悪化で建設中止。作品は行方不明に。30年後の2003年に発見され、修復。JR渋谷駅と京王井の頭線渋谷駅の連絡通路に設置され、ちょっとしたニュースになった。ピカソの『ゲルニカ』を思わせるような、おどろおどろしい画題だ。原爆の瞬間を描いている。左端の人々に希望が。

岡本太郎は、縄文土器をはじめ日本の土俗的な文化に興味をもっていた。

『方丈記』鴨長明

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世中にある人と栖(すみか)と、又かくのごとし。

河は絶えることなく流れ、その水はつねに新しい。
流れのない水面に浮かぶ泡も、消えたり、くっついたりして、そのままであることはない。
世の中の人や家も——街も——、またこのようなものである。

渋谷は、つねに工事をしている。渋谷駅周辺も再開発中である。渋谷パルコも工事中だ。渋谷は変わりゆく。成長しているのかもしれない。若さの新陳代謝が “匂い” となって、人を惹きつけるのだろうか。

注)鴨長明(1155〜1216)は、下鴨神社の禰宜(ねぎ:神主の下の役)の次男として生まれる。歌人、随筆家。『方丈記』では、天災についてや小さな方丈庵の暮らしなどを記した。

P.S. なぜ、今、AKIRAなのか?

P.S. なぜ、今、AKIRAなのか?

パルコは、流行やサブカルチャーの発信源だ。そのパルコが工事をしている。渋谷のパルコが開いてないなんて、ちょっと寂しすぎる。その工事現場の壁面に『AKIRA』が描かれている。なぜ、今、AKIRAなのか? 『進撃の巨人』なんかの方が、今っぽいかもしれない。

冒頭の渋谷系が、1990年代だった。それよりも前になるが、1980年代のマンガやアニメといえば——まあ色々とあるだろうが、圧倒的なスケール感や世界観でいえば——、この2作品だろう。この2作は、世界で話題となった。

『AKIRA』は「ジャパニメーション」として、欧米を中心に世界中で大ブームを巻き起こす。

舞台は、爆弾が落とされた近未来の東京。少年グループのリーダー金田は、交通事故で超能力を手にした鉄雄と対立。そこに、軍隊、ゲリラ組織、宗教団体、アメリカなどが入り乱れ、無政府状態となった東京の争奪戦を繰り広げる、といったストーリーだ。

アキラというのは、圧倒的な超能力をもつ少年の名。人類の未来を象徴するような存在である。『AKIRA』はカオスのような東京で、未来を見つめている。

『AKIRA』は再び注目される。実は、この1980年代に描かれたマンガは、2019年が舞台なのだ。そして、フィクションであるマンガが、奇しくもリアルとなった。

2020年、東京オリンピックが開催される。

注)『AKIRA』では、爆弾が落とされた東京は「旧市街地」と呼ばれ廃墟と化している。2020年に開催予定の東京オリンピックへ向けて、再開発されるという設定。

P.S.

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